2013年3月23日、僕は関東ふれあいの道を歩き始めた。
まだ自分の住んでいる千葉のことすらよく知らなかったが、週末の暇潰しに、とりあえず有名な鋸山にでも登ってみよう。
きっかけはそんなようなことだったと思う。
そして関東ふれあいの道との出会い。
関東を一周する、そんな長い道があるのか。
どうせ暇だし……歩くだけなら楽そうだな。
そんな気持ちで始まった思いがけない旅。
そして歩を進めていくごとに「自分の足で道を繋げていく」という魅力に引き込まれていった。
まだ見たことのない景色を、自分の足で見に行く。
まだ自動車も列車もない、そんな時代の旅人たちに自分を重ねて、その土地の風土や文化を知り往時に思いを馳せた。
険しくて音を上げたくなるような山があった。
照りつける日光と猛暑で、熱中症で倒れそうなこともあった。
凍えるような雪山で疲労困憊して、あわや遭難しそうになったこともあった。
崖のような切り立った岩にへばりつき、怖くて泣きそうになったこともあった。
2013年の3月、何気ない思い付きで歩き始めた道の先には僕の知らなかった様々な困難があった……
しかし、そんな困難の道の先にはいつも、絶景や感動、そして心地よい達成感が待っていた。
まさに人生を変えたと言っても過言ではない、そんな道の、旅の果てまで3年と9ヶ月かけ、ついに歩いてきてしまった。
14:10、神奈川最後のコースを終え、千葉県へ向かう。
冬でも青々とした大根畑とその向こうに見える浦賀水道と房総半島が美しかった。
一度県道を離れる。
美しい大根畑の中を歩いていく。
三浦霊園沿いに坂を下る。
再び県道に出てくると、しばらく車道の路肩を歩く。
自動車の往来が多く、危険な感じだ。
しばらくすると三浦海岸に着き、そこからは海岸沿いに快適な歩道が付いている。
車道は車が渋滞していてとてもじゃないが歩く気にはならない。
途中に首都圏自然歩道三浦インフォメーションセンターがある。
年末なので残念ながら閉館していたが、なぜコースの途中でもないこんな中途半端なところにあるのだろうか。
この連絡コースを歩いている人ぐらいしか立ち寄ることはないと思うのだが……
途中で国道が合流してくる。
横須賀市に入ったようだ。
三浦海岸を過ぎると再び車道を歩くが、ここからはちゃんと歩道があるので安心だ。
そのまま国道を行くため、途中から海岸を離れて内陸側の市街地を歩くようになる。
展望がなく、少しつまらなくなってしまった。
尻こすり坂の切通を抜け、坂を下っていく。
久里浜から三崎へ抜ける三崎街道の要所だったようだ。
久里浜の市街地に降りてきた。
駅前なこともあり、もう完全な都市部に来た感じがする。
平作川の手前の交差点で右折して県道に入る。
もう日が暮れそうだ……間に合うか?
青看板にフェリー乗り場の案内が。
突き当りを右折する。
見えた!
あれが久里浜港のフェリー乗り場だ。
あと少しだ。
16:40、東京湾フェリーターミナルに到着。
何とか日没には間に合ったようだ。
とりあえずは、これにて神奈川県は完全に歩き通した。
お疲れさま。
残念ながらすぐの出港とは行かず、17時25分の便で、甲板からの夕日の眺望とはならなかった。
さようなら、神奈川……
神奈川県はやはり海の印象が強かった。
特に岩礁を歩くのは、同じく海岸コースのある千葉県でも体験のできないコースだ。
また、東海自然歩道で歩いた丹沢の山々もまた記憶に残り続けるような、自然豊かな美しいところであった。
18:05、千葉県の金谷港に到着した。
少しでも旅情を感じたかったので、ずっと甲板に居たのだが、暗くてほとんど何も見えず、ただ寒いだけであった。
やはり日のあるうちに乗りたかった。
2016年12月30日18時17分、浜金谷駅に到着。
駅前には関東ふれあいの道の、千葉県コースの案内板があった。
つまり、これにて連絡コースを含め、関東ふれあいの道を完全踏破したことになる。
関東を一周、自分の足だけで歩いてきた。
…………感動的なエンディングを、予想していた。
しかし、3年と9ヶ月を費やした果てのゴールを彩ったのは、駅舎の無機質な蛍光灯の明かりと、完全な静寂と……
そして、いつもの「ああ、今日も歩いたな」という小さな達成感だった。
何ともあっけない。
千葉県でおせんころがしの切り立った崖に穿たれた道を初めて見たとき。
茨城県で筑波山の女体山から関東平野を見渡したとき。
栃木県で1日で49kmを歩き通したとき。
群馬県で春の息吹に萌える草花を静寂の山の中で見たとき。
埼玉県で沢の作り出した天然の回廊を歩いたとき。
東京都で初めて富士山を遠望したとき。
神奈川県で自然に抱かれて山で眠ったとき。
あんなに感動したのに……それに比べて、ここにあるのは本当に小さな小さな達成感だった。
金谷港から沈む夕日に向かって僕はやり遂げたぞと叫べば良かっただろうか。
浜金谷駅で自分で用意したゴールテープでも切れば良かっただろうか。
……いや、やはり最後の今日も、「素晴らしい景色を見れたし、今日も楽しかったな。それにしても疲れた。早く帰ろう」そういういつもの気持ちで旅を締めくくるのが正解なのだろうな。
金谷港の近くにある寿司屋で、地アジを食べて、いつも通り、帰路に就いた。
関東ふれあいの道、完踏。
完全踏破から少し時間が経ってしまいましたが、偉業達成おめでとうございます。m(__)m
返信削除自分事を言ってすみませんが mcbeth さんのアドバイスもあって、
地元の栃木県コースを約2年近くをかけ作年の5月に認定コースを何とか踏破する事が出来ました。ありがとうございました。
(但し群馬県からの連絡コース2つとNo5の最長の連絡コース、茨城県へ続く連絡コースは歩いていません)
そんな事もあって関東ふれあいのみち一都六県を完全踏破をするという事は、その都度、歩くコースに通うだけでも大変なのに、
内容や帰りの交通機関の時間を考えるなど、想像を絶する凄い事だと思います。本当におめでとうございました。
ありがとうございます。
削除距離と時間にしても、手間とお金にしても、結構掛かっているにも関わらず……
記事にも書いてますが、何だか実感が有りません。
毎週末に趣味でブラブラしていたら「あれ?もう終わっちゃったのか」って感じですかね。
栃木県コース踏破おめでとうございます。
栃木県は関東ふれあいの道でも最もコース数が多いので、踏破は大変だったでしょう。
栃木県にお住まいでしたら、次は群馬県を歩かれてみてはどうでしょう。
これから春になると山に咲く草花の美しさが格別だと思います。
お互い今後も気を付けてハイキングを楽しみましょう。